Interview
04
FARM STAY KAERU
綾子

校舎を活動拠点として選んでくれた、利用者のみなさんをご紹介するインタビューページ。

第四弾はFARM STAY KAERU・泉綾子さん。大阪出身の泉さんは、旦那さんが御祓出身。そんな旦那さんを大阪に残し、なんとご自身(嫁)+息子くんだけで旦那さんの実家にIターン!御祓で「農家のヨメ」として活動されています。

聞き手はわたくし、「みそぎの里」運営をしている水谷がお送りいたします!
早速お話を聞いていきましょう◎


泉さんのフィールドは校舎だけに留まらないかと思いますが、それも含めて、どんな取り組みをしているか教えてください。

普段は春~夏の半年間を使って、スイカ農家を営んでいます。

農業は全く未経験の素人でしたが、御祓に来た年から手伝いでスイカ栽培を学び始めて、今年が四年目。初めて自分が主体でやってみることにして、ちょうど収穫と出荷が終わったところです。

移住してきたのは2018年の4月。ここで同居する農家の義父母が、既存の作物に加えて新たに初めてスイカ栽培を始めるタイミングで、ちょうど引っ越してきた私も家業に加わり一緒にやり始めました。

でもその直後の6月、それまで元気だったお義父さんが急に倒れてしまい。退院した後も思うように動けず、看病に付きっ切りのお義母さんは心配して落ち込んで。

こうなる前は、私は正直応援に近いただのお手伝い気分だったんですが、「すでに始まっているこのスイカを最後まで育てきらなあかん!私がやるしかない!」っていきなり嫁の使命感に駆られ(笑)、手順も何もわからないながらお義母さんと2人主力人員になって、言われるままに夢中になって畑仕事をやりました。

そしたらそれがひと月後、ちゃんと見事に株が育ち、玉が成り、ふた月後には収穫できて、出荷を終えて3か月後にはお金になって・・・という過程を初めて自分事として体験して、「ほお~!これが生産者か!」って、当たり前だけどすごく感動して。

きっかけは必要に迫られてだったけど、土づくりから出荷まで一連の流れを自分の体を通して経験したことで、「これがゼロからイチを生む作業なんだ」というのを実感しました。

それと、自分の体を使うからこそ「なぜこの作業が必要なのか?」「ここがやりにくいけど改善するにはどうしたらいいのか?」「こうしたら失敗だったから次はこうするといいのかも」とか、目の前にどんどん出てくる疑問点や反省点、改善点、あらゆる数値(量、時間)は常にノートに書き留めて、後で調べたり、未来の自分を助けるデータとしてストックしておきました。

1シーズン分の経験=実体験に基づくデータを獲得したことで、それをもとに分析・考察して次回はさらに上を目指せる、みたいな今の自分を超える欲が出てきたんですよね!だから次こそ!来年はこの方法で!って毎回やってる。なんにでもいえるけど、ここが農業の面白いところの一つです。

あとは、元々ものづくりが好きなので、アクセサリー作りや、ミシン縫製、編み物、和紙の小物作りなどもやっています。日常生活の中でのちょっとしたことで、「これ自分で作れるんちゃう?」とか「作ってみたら面白そう」といった、目的より過程が面白そうだと思ったことを形にしています。

今は義父母の家に同居させてもらってるので、どうしても自分の好きなことをする作業場所や少しずつ集めた道具や資材の置き場も無くて。「実験のスペース=自分のアトリエ」が欲しくてこの校舎の一室を借りることになり、自分のものづくりの実験場にしていきたいと思って準備しています。

―旦那さんと大阪で出会って、旦那さんの実家に、旦那さん抜きで引っ越して来られるっていうのが本当に珍しいパターンだと思うのですが、どういう動機だったんでしょうか?

言語化するのが難しいんですが・・・一言で言えばノリです。

義父「畑と使ってない家、好きにしていいぞー」

私「おー!ほな行く行くーー」って。

ちょうど12年勤めた仕事を退職して、漠然と新しいことに挑戦してみたかったタイミングだったんです。大阪での仕事がある旦那と別拠点生活になるのは寂しい反面、大阪↔愛媛間なんて距離は近いしすぐ会えるから、ちょっと行ってくるね~って感覚で。

今までと環境を変えて、気の向くまま自分のアンテナに引っかかったものを片っ端からやる生活をしてみたかったというのと、好きにしていいと言ってくれた義祖父の空き家と畑がそこにあったから。

家を丸ごと一軒DIYできる。自分の家を自分で作れて、畑や土地もあるということで、色んな妄想が広がって。例えばツリーハウスとか、秘密基地みたいなんとか、アスレチックみたいなんとか。自分で世界を作っていけそうな感じが魅力的だったかな~。

移住してみてわかったけど、大阪には完成されたものが多くて。買えるものは何でもある状態だけど、買ってそれで終わり。何か困ったときに「こんなん無いかな?」って探す前に、もうすでに用意されてるものがたくさんある。

今思えば、ここは良い意味で未完成で、不便な所が魅力だったってことですかね。

移住前から御祓には義実家への里帰りの度に、1~2週間と長めの期間子どもを連れて来ていて。毎日自然を満喫して、畑をやってみたり、子供に土を触らせたりしてました。

まだ子どもも小さかったので、ふと庭の一角にブランコを作ってみたろかなと思ってお義父さんに言ったら、木材の端材をもらいに近くの大工さんのとこへ連れて行ってくれて。「ホームセンターで買うんじゃなくて、そういう感じなんや…!」っていうのが面白いなと(笑)

ぴったりの長さや太さのものなんか無いけど、良さそうなもの見繕ってもらって帰って。こうかな?ああかな?なんて言いながら家の前の道路に木材広げてやってると、通りかかった近所のおじちゃんが「何しよんぞー」って。

「ブランコ作りたいんです~」言うたら、「前うちの子が使っとったブランコは手作りよ~、そのときに使っとったチェーンとかあるから持ってくらい」って本当にすぐ持ってきてくれたり。ボルトとかも全部揃ってたから、あとは乗るとこと枠組部分だけ作れば良かったという。

―まさかのブランコ作りの先輩登場(笑)モノまで揃ってるとは心強すぎますね。

組み立てはネットを駆使して、「こうだと強度が出るのかな」とか調べて。数日後いざ電鋸やドライバー使ってやり出したら、そのブランコ作りのおっちゃんがまた様子を見に来てくれて、「こういう組み立てが良いんよ」っていうミニチュア模型まで作ってきてくれたんです!(笑)

そのときの自分は“里帰りしに来てる嫁”でしかなく、そんなに話したこともないのにそんなことまでしてくれて、知ってることを惜しげもなくぐいぐい教えてくれて。

ブランコ本体が強度も良い感じに完成し、あとは地面に取り付けって段階で、振り子の運動にも耐えられるにはどう固定したら良いんだろうと。そう思った時に次は別のおじちゃんが通りがかって。「これをこうしたら良いんじゃないか」とか言いながら、もうわ~~っと作業を進めて。

「私のブランコが、みんなの力によって完成されていく…!」みたいな状態。「ここに来たらこんなことになんの…?」と良い意味でびっくりして(笑)でも、そんな出来事が自分の背中をここで暮らすほうへと大きく押してくれたかな~。

みんな知識を持ち寄ってくれるし、道具も良いのがあると家まで取って来てくれたり。しまいには、私をそっちのけでやってくれてるみたいな!頼んでないのに!それが面白くて新鮮でした。

まあ結局、乗ったのは数える程度でブランコも今や無残な姿になってますが(笑)その過程が本当に面白くて、ブランコ見るたびにあの時の光景を思い出します。

―いや~ものすごく御祓をうまく表してる良いエピソード!!「自分で作ってみるのが面白い」っていう綾子さんの素質みたいなものが、御祓の素質にすごく合ったのかもしれないですね。

御祓の人たちは「無ければあるもので工夫して作る」という気質があるなっていうのを私自身感じていて。それは元々便利が良いわけではない、この山あいの風土がそうさせてるのかなって思っているんですが、それが綾子さんのキャラクターと上手いことマッチして。

お話聞いていて、みそぎ、良いところだなぁと改めて思ってしまいます(笑)

さて、そんな御祓を舞台に、綾子さんはこれからどんなことをしていきたいですか?

スイカだけではまだまだ収入的に難しいので、スイカを半分くらいに見立てて、半分を何か別のことや自分の好きなことをして収入を得られるようなスタイルが確立できたら理想的かなと思ってます。

具体的には、冬は冬の野菜を育てて出荷してみようと思っているのと、義祖父の空き家をDIYして、前からやりたかった農家民宿を始めようかと。ゲストを招いて、採れたて野菜を振舞ったり、御祓の周辺を案内できるような施設を開きたいと考えています。

あとは今もスイカのロス(病気や傷で出荷できなかったB品)が出た場合、シャーベットやジャム、スイカ糖(煮詰めて蜜を抽出したもの、保存が利く)というのを作ってみたり、小学校の厨房を借りてそうした実験などをしています。スイカは調べたら余す所がなく、タネも鬼皮の部分も食べられる。どの部分にもそれぞれに栄養素があって健康食としても使えるので、そういうのを生かせればと思っています。

基本的には気分屋なので、そのときに思いついたり、そのとき面白そうと気持ちが動いたものをどんどんやっていきたいです。

―いいですね。御祓に待望の農家民宿ができるのは本当に楽しみだし、スイカのロスを活用した商品も、何か定番になるようなものができたら良いですよね!

綾子さんは自分の活動のフィールドである御祓の地域やこの校舎が、これからどんな場所になったら良いと思いますか?

シェアできる場所があることは、すごく面白いことだと思うんです。自分が面白いと思ったことを誰かとできたらもっと楽しいし、違う形も生まれる。

自分は元々研究型タイプで。これはどうできてるんだろうとか、探索や実験をしてみたり。これまでは自分の世界だけで十分完結してたんですけど、あるときものづくりを人と一緒にやったらすごく新鮮で、新しい楽しみ方を発見して。

一人でやる楽しさも好きだけど、みんなでやると圧倒的に世界が広がる感覚を知ったので、校舎でもそういう感覚・価値観のシェアできる場に繋げていけたらいいなあと思います。

料理もそうで、御祓の地域の料理や味付けにも興味があって。私が嫁として家でやってる❝暮らしのしごと❞も楽しいから、そこに関わってくれる人がいたら良いなと。例えば、味噌づくり、干し柿・干し大根づくり、餅つきは杵と臼で、手打ちうどんは小麦を育てるところから。らっきょう漬けは掘るところからだし、栗は落ちてるから拾うもの。最近は家で芋からこんにゃく作りをするっていう時に、友人たちに知らせて興味のある人たちに来てもらったりもしました。

近所の人が来ていきなり一緒に作業やりだすみたいな、そんな日常の風景が面白すぎて。そういう面白い雰囲気を、私だけじゃなくて他の人にも味わってもらいたいって思うから、そういう個人でやってたことを共有できるような場所になったらいいなと思います。

―なるほど。ちなみに民宿を開いたら、そこで体感してもらいたいものってどんなことですか?

魅力あるアクティビティでお客さんを呼ぼうと思ったら、やっぱりプロデュースとして作り込む必要はあると思います。ただ、私の理想は日常に入ってきてもらうっていう感じ。原木椎茸の菌打ちとか、朝採れ卵を産んでくれる鶏のお世話とか、野草を摘んできて瓶に挿しとくとか、そういういつものことを一緒にしたいなと思ってます。

地元の人には当たり前で不便ですらあることでも、外から来た私だからこそ、そのままの地域資源の価値や、ありのままの暮らしの贅沢さを感じるので!

それから野菜の収穫体験は、絶対大きい。最強鮮度で味が濃いし、自分で採るだけで何故か美味しい。畑を前にその場で食べるとさらに美味しい。スーパーの野菜が食べられなくなるくらい美味しいというのを体感してほしいです。

―「理想は」と言ってたけれど、「日常に入ってきてもらう」というのを実際本当に目指して欲しいなと思うし、そういうのを求めている方は結構いるんじゃないかと思います。

泉家の日常は、ここまでの話でも分かる通り、本当に色んな人が登場してきて、仕掛けたわけじゃないのに、そういう展開があるっていうのが何より面白いと思うんですよね。作り込んだプランも面白いけど、作り込んだわけではないからこその面白さがそこにあると思います。

今日は素敵なお話聞かせてくださりありがとうございました!